[参加記]
日に日に秋の深まる10月19日、お茶の水女子大学で開催された西洋中世学会若手セミナーである元レスター文書館長マーガレット・ボニー博士による古文書セミナーに参加した。当日の参加者は学部生、院生や教員など30人ほどであった。
セミナーはまず、古文書の基本についての簡単な講義が行われた。古文書解読の難しさは手書き文字の判読と多くの省略形にあるが、それはまるでジグソーパズルのようだと再三ボニー博士がおっしゃっていたのが印象的だった。また史料を理解する上でタイトルや最初の行がとても大事であること、史料の種類によって定型のフレーズがあるのでそれを押さえることで内容を理解しやすくなることなどを説明された。今回は事前にボニー博士の専門でもあるダラムの都市文書史料16点の画像が参加者に渡されていたが、続いて実際にその内の2つの史料を使って定型部分や人名などを読解する演習が行われた。
その後ティーブレイクを挟んで残りの史料(一部割愛)についてボニー博士が指し示した人名や史料の一部分を参加者が読解する形で演習が行われた。今回使用の史料はラテン語であったが、中に1点英語のものがあり、これについてはかなりの部分の読解が行われた。
今回ボニー博士は受講者に、まず史料の全体を眺めさせ、同じ単語を探させた。人名や基本的な省略形がそれにあたるが、これらを探すことで、史料ごとに異なるその史料の文字の癖を把握することが出来、特に私のような読解にまだ不慣れな者には、闇雲に頭から読もうとするよりも、読解を行う上で有効だと実感したので、今後ぜひ実践していきたい。
ただ、今回ボニー博士は多くの史料をご用意くださったが、時間の関係上後半はかなりの早足で進み、私の至なさゆえに、文字の判読についていくのがぎりぎり精一杯であった。若手セミナーという趣旨からすると、あるいはもう少し数を絞った史料を前半のようにじっくり演習するという形でもよかったのではないかと少し残念に感じた。
しかし全体として大変有意義で、今後私自身が古文書読解を行う上で役立つ古文書セミナーであった。
加藤はるか(お茶の水女子大学大学院)
今回開催されたマーガレット・ボニー博士の古文書セミナーは、理学部3号館701室という比較的大人数向けの講義室で開催された。セミナーの進行自体は基本的にパワーポイントと手元のコピーを適宜見つつ、ボニー氏とともに史料内容を追っていくという講義形式に近いものだった。時折発せられる氏から参加者への問いかけには、各人が座ったまま口々に答えていくかたちだった。
といっても、恥ずかしながら私は氏の英語を聞き取ることに必死だったため、その問いかけを考えるまでに至らないことが多かった。セミナーには通訳が一切なかったため、終始英語のみで行なわれる授業にほとんど参加したことのない私は、とりあえず氏が今史料のどの行のどこの単語の話をしているのかを探るので精一杯であった。しかし、有難いことにボニー氏は、一語一語を丁寧に分かりやすく紹介してくださったため、英語のみならず古文書に不慣れな私でも一部は解読出来たという達成感を味わうことが出来た。
これまで論文や授業等でラテン語を読むことはあっても、それらはすべて活字書体に直されたものであった。そんな私にとって、実際に古文書に書かれたままの字体から読み解くという体験は、より史料と深く向き合えているという実感を得られた貴重なひとときとなった。一文字、一文字追っていくことで綴りの省略や微妙な字体の変化を発見していく面白さは活字では味わえなかった。中でも個人的に印象に残ったのは、自分が「読み難いな」と感じていた字体をボニー氏も「読み難い」と評していたところだった。当たり前のことかもしれないが、字体の読み易さ・難さの感覚は出身や経験等の差があってもある程度共通しているのだなと思った。
セミナー後には懇親会が開かれ、僭越ながら私も参加させていただき、普段あまり交流のない学部生の方や他大学の英文学専攻の方とお話した。非常に充実した楽しい時間となり、これもまた得難い経験の一つとなった。
正直今回のセミナーの内容は私の実力をはるかに上回るものであったが、新井先生が懇親会の際、「『とにかく分からなかった』と思うことも大切」と仰ってくださったことが大変励みになった。上記に挙げた経験も参加しなければ得られないことであったし、体当たりで挑んでみることの大切さ、そして、自分の実力不足を知るという意味でも、このセミナーに参加して良かったと思えた。
ただ、一つだけ気になったのは教室の関係上、ボニー氏と参加者の距離が遠かったことであった。今後このようなセミナーを開催するならば、もっと狭く、講演者と参加者の目線が同じ席配置が可能な会場を選んだ方が良いのではと感じた。
磯部末利花(お茶の水女子大学大学院)
以上です。次回以降の若手セミナーも、どうぞよろしくお願いいたします。