2017年度若手セミナー報告

 2018年1月20日(土)13時半より、同志社大学今出川キャンパスにて2017年度若手セミナー「古典再読:ハスキンズ『十二世紀ルネサンス』を読み直す」を開催いたしました。
当日は35名(内、学部・大学院生:10名)の方にご参加いただき、Ustream配信(報告部分のみ)でも常時10〜18人ほどご試聴いただきました。参加者の専門分野はやや歴史学に偏りがみられたものの、幅広い年代の方々にご参加いただき、『十二世紀ルネサンス』に対する様々な読み方を共有する機会となったと思います。
 以下では大学院生のお二人による参加記と当日のアンケートに寄せられた感想・コメントの一部をご紹介します。

【参加記1】


 「古典再読」と冠された2017年度西洋中世学会若手セミナーでは、西洋中世学の古典的名著であるハスキンズ著『十二世紀ルネサンス』をめぐり、様々な時代・地域を研究対象とする参加者により意見が交わされた。本セミナーは、参加者全員が事前に同書を読んでいることが前提とされ、当日は分野の異なる3名の研究者による報告と参加者によるディスカッションの2部構成で進められた。

前半の報告ではまず、小野氏の教会史研究の視点に基づいた報告が図師氏により代読され、それに対して赤江氏により充実したコメントが加えられた。その後、タカハシ氏は哲学史・科学史の視点から、岡北氏は15世紀イタリア建築という自身の研究対象に引き付けてそれぞれ報告を行った。中でもタカハシ氏の報告は、著作や翻訳の後代における受容の問題を取り上げるものであったが、ハスキンズが挙げた12世紀の代表的な「哲学者」たちによる偉大な学問的達成と、13世紀以後の哲学的伝統に対する彼らの影響とは慎重に区別した上で評価する必要があるという氏の指摘は興味深いものであった。

  続くグループ・ディスカッションでは、参加者が複数のグループに分かれ、実行委員の提示したトピックを参考にしつつ『十二世紀ルネサンス』について自由に話し合った。最初はぎこちなさもあったが、先生方の助けもあり、『十二世紀ルネサンス』を読んで感じたことをビザンツ・フランク・北欧・俗語文学など参加者の多様な関心から積極的に共有することができた。私にとってこの種のディスカッション形式は初めてだったが、大学院生が中心となって議論ができるというだけでなく、同じグループの先生方から意見をいただくことでより密な学びの場にもなるという点で有益であるように思われた。些末なことで一つ提案をするならば、名札があると仮に大学院生などが初めて参加する場合でもスムーズに議論に加わることができるのではないかと感じた。

 本セミナーは、『十二世紀ルネサンス』という名著を軸に、多様な研究者たちの「読み」を自身のものと比較することで、西洋中世史の広い枠組みにおける自身の専門領域の位置づけを直に感じることができたという点において、非常に刺激的なものであった。一参加者として、報告者や本セミナーを企画して下さった実行委員の方々に感謝申し上げると同時に、このような研究者間の活発な学問的交流の機会がさらに増えることを期待したい。

紺谷由紀(東京大学大学院)

【参加記2】


 2018年1月20日(土)、同志社大学にて、2017年度若手セミナー「古典再読:チャールズ・H・ハスキンズ「『十二世紀ルネサンス』を読み直す」が開催された。本セミナーでは、専門分野や研究対象の時代・地域によって異なる「古典」の読み方に接することに、主眼がおかれていた。

  最初に、実行委員長の松本先生から、日本における『十二世紀ルネサンス』の受容についての整理があったうえで、本企画の趣旨説明がなされた。次に、歴史・哲学・建築をそれぞれ専門とする3人の研究者による個別報告があったのち、パネルディスカッション、そしてグループディスカッションがおこなわれた。

 パネルディスカッションにおいては、各報告者への個別の質疑に加え、12世紀を研究する上での史料上の制約により個人に注目しがちな傾向があることや、『十二世紀ルネサンス』のもつイデオロギー性についてなど、全体にかかわる論点が提示された。これを受けて、グループディスカッションに移った。
個人的には、このような学問的な集まりの場で、グループディスカッションに参加したのは初めての経験であった。フロア全体での討論とは別に、それに対する各自の意見や、各々が従事している研究内容にもとづくコメントをかわすことができたのは新鮮だった。最後に、各グループでの討論の内容が全体に共有されたさいには、それぞれに異なる多様な議論の内容を垣間見ることができ、興味深かった。

 グループディスカッションの試みにかんして、改善の余地があると思われた点を1点だけ述べさせていただきたい。それは、周囲にいる参加者とグループをその場で作る形式であったため、メンバーに専門分野や世代の偏りが生じてしまったように感じられたという点である。若手セミナーとしての性質、およびさまざまな学問分野の集合体であるという西洋中世学会の利点を活かすためにも、これらの偏りをできるだけ回避することによって、より自由で刺激的な学問的交流の機会になりうるのではないかと思った。

 今回対象となっていたハスキンズ『十二世紀ルネサンス』は、各専門分野における読み方の違いに触れ、現在の研究状況にもとづく知見を共有するうえで、非常に効果的なテキストであったように感じた。学際的な集まりとしての西洋中世学会の強みを実感し、有意義な時間を過ごすことができた。

藤田風花(京都大学大学院)

【参加者の感想(アンケートより抜粋)】


■全体について

  • 視野を広げる機会になった。
  • ハスキンズの本は今回初めて読んで多くの示唆を受けた。ただ、「タコ壺化の打破」を目指した企画だが、いかにそれが難しいかも示していた(とくに報告者と質問者のやりとりなど)。
  • 文化史・社会史的な本ばかり読んでいて、それ以前の政治史的・経済史的な、現在の先生方が自明・前提としている議論を知らない/少し聞きかじっているだけの場合も多いので、読書量と幅を広げるべきだと思った。
  • 自分の専門とする時代と直接は関わらないが、同様のテーマに関心があるので勉強の機会になってよかった。自分一人では出てこないような複数の読み方に触れることができたのは、とくに本学会の特質があればこそだと思った。
  • 数少ない近現代研究者として参加したが、専門の枠を越えて興味深い議論を楽しむことができた。各専門家の批判的読解は示唆に富むものだったが、歴史叙述や史学史について(ハスキンズ、8章)扱うと、より幅広い専攻の人が楽しめたと思う。

■グループディスカッションについて

  • 色々な分野の人の意見が聞け、自分の関心の話もできてよかった。
  • グループに様々な分野・年代の人がそろうよう事前に分けた方がよいのではないか。

■今後も「古典再読」を続けるなら…

  • とても勉強になったので、学部生も気軽に参加できるよう呼びかけがあるとよかった。
  • 取り上げてほしい古典:
  • アナール派や地域史
  • バフチンのラブレー論
  • ピレンヌ
  • H. ホワイト『メタ・ヒストリー』
  • 『十二世紀ルネサンス』のように、様々な時代/分野の人間が議論に参加できるもの

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