イベント報告「若手研究者のためのセミナー」を公開しました

イベント報告「若手研究者のためのセミナー」

 西洋中世学会の正式発足にさきがけて、2008年10月25日(土)26日(日)の2日間に渡り、西洋中世学会準備委員会と日本中世英語英文学会の共催による「若手研究者のためのセミナー―西洋中世学を学ぶ人々のために―」が、慶応義塾大学三田キャンパス東館を会場にして開催されました。

(→開催プログラム等

画像1、一日目の講演の様子
1日目の講演を聴くセミナー参加者

 セミナーは1日目午後からスタートし、亀長洋子氏(学習院大学)の司会進行で、日本中世英語英文学会副会長の向井毅氏(福岡女子大学)による挨拶、松田隆美氏(慶應義塾大学)の趣旨説明に続き、高田康成氏(東京大学)「Tertium Quid:メディアとしての西洋中世」、佐藤彰一氏(名古屋大学)「12世紀ルネサンス論再訪―アリストテレス受容をめぐる最近の動向―」の2本の講演が行われました。中世英文学と西洋中世史の第一人者として著名な両氏の知的な刺激に満ちた講演に100名を越える聴衆が聴き入り、大盛会となりました。

画像2、一日目の講演の様子高田康成氏
画像3、一日目の講演の様子佐藤彰一氏

 また、講演終了後には、会場近くのイングリッシュ・パブ「三田82 ALE HOUSE」で懇親会が開かれました。こちらも60名以上が参加する賑やかな会でした。

画像4、懇親会の様子盛り上がった懇親会
画像5、懇親会の様子お二方もにこやかに

 2日目は、まず午前に「中世学研究の現場に触れる」と題し、以下の4つのワークショップが開かれました(趣旨は、報告者がプログラムのために執筆したものです)。

ワークショップA「書物と読書行為」

担当者:杉崎泰一郎(中央大学・フランス宗教史)、北村直昭(法政大学非常勤講師・書物の歴史)

趣旨:読書行為と書物は幅広い分野から注目されているが、とりわけ古書体学など写本学における研究の進展が著しい。今回はこれらの分野での最近の研究を紹介し、読書行為や書物というテーマが中世学諸領域とどのようなつながりをもてるのか意見交換をしたい。[ワークショップ詳細]

画像6、二日目のワークショップの様子ワークショップA:杉崎氏(左)と北村氏(右)

ワークショップB「図像学(イコノグラフィー)のその先へ―ロマネスクの美術と建築を“読む”―」

担当者:金沢百枝(國學院大学・ロマネスク美術史)、小倉康之(玉川大学・建築図像学)

趣旨:特殊な図像や建築をどう「読む」か。第一部では怪物や動物など、聖書や聖人伝の知識では読み解けないロマネスク美術の「図像」を、第二部では建築そのものが担う意味をクラウトハイマーの論考をもとに考察する。[ワークショップ詳細]

画像7、二日目のワークショップの様子ワークショップB:金沢氏(手前)と小倉氏(奥)

ワークショップC「歴史叙述と権力」

担当者:鈴木道也(埼玉大学・フランス史)、有光秀行(東北大学・ブリテン諸島史)

趣旨:多様な歴史認識が交錯する中世社会にあって、歴史叙述に携わる知的エリートたちは、どのような意識と方法論をもってそれぞれの史書を組み立てていたのだろうか。歴史家が常に直面する歴史叙述と権力との関係について、13、14世紀フランス王国の年代記における写本間の異同の問題を手がかりに考えてみたい。[ワークショップ詳細]

画像8、二日目のワークショップの様子ワークショップC:有光氏(左)と鈴木氏(右)

ワークショップD「写本と刊本のあいだ―説教テクストを読む」

担当者:赤江雄一(中央大学研究員・文化史、宗教史)、藤井香子(大阪学院大学 古英語統語論・写本研究)

趣旨:このセッションでは、中世ヨーロッパにおいて、もっとも重要なコミュニケーションの形態に数えられる説教に対して、どのようなアプローチの仕方があるのかを考えたい。具体的には、アングロ・サクソン期の古英語の説教と、14世紀イングランドのラテン語の説教を例にとりつつ、元の写本と、写本から活字化された刊本のあいだに、どのような問題が含まれ、どのような研究につながりうるのかを例示することで、今後の研究の可能性を示したい。[ワークショップ詳細]

画像9、二日目のワークショップの様子ワークショップD:藤井氏(左)と赤江氏(右)

 1時間半のワークショップでは、気鋭の研究者たちが、さまざまな史料を提示しながら、各分野の基礎情報と研究の現在について具体的に語った後、参加者との対話をおこないました。活発な意見のやりとりもみられ、報告者の伝えたいという気持ちと今回の試みに対する参加者の期待感が強く感じられた場でした。ワークショップが、前半にAとB、後半にCとDと二手に分かれて同時開催されたため、すべて参加できなかったことを残念がる声も聞かれましたが、どのワークショップも数十名の出席者を数える大入りで、4つのワークショップ全体の参加人数はのべ200人を越えました。

画像10、二日目のワークショップの様子熱気あふれるワークショップ会場

 引き続き、午後に催されたパネル・ディスカッション「Medievalistになること」では、午前のセミナーを担当した有光秀行、杉崎泰一郎両氏の司会のもと、三浦麻美(中央大学院生・ドイツ宗教史)、松田隆美(慶應義塾大学・イギリス文学)、岩波敦子(慶応義塾大学・ドイツ心性史)、徳橋曜(富山大学・イタリア都市史)の各氏に、セミナー担当者の赤江雄一、藤井香子両氏を加えた計6名のパネリストたちが、自らの留学体験と留学先の研究環境を紹介し、これから留学を目指す若手研究者たちにエールを送りました。その後、参加者からの感想や質問に、パネリストたちが時にユーモアを交えながら応答をするうちに予定の時間となり、最後に、池上俊一氏(東京大学)によって全体の総括と西洋中世学研究の将来を展望する閉会の辞が述べられ、セミナー世話役を務めた岡崎敦氏(九州大学)の締めくくりの言葉とともに、2日間の日程の幕が閉じられました。

画像11、二日目のパネルディスカッションの様子司会者とパネリスト
画像11、二日目のパネルディスカッションの様子参加者との質疑応答

 中世学研究・教育のいまを再考し、これからの学界を担う若手研究者の支援を意図して企画された今回のセミナーを通じて、日本における西洋中世学研究が、ここ数十年の間に、質量ともに劇的な発展と変化をとげ、それだけにますます、若手研究者には新たな課題が課せられている様子が浮き彫りとなりました。と同時に、西洋中世学研究が、変容する学問状況にあっても、その最前線に位置する知的な冒険であり続けていることが改めて確認されました。これを次の世代に継承するためにも、若手研究者の支援が強く求められています。今回のセミナーは初の試みであったため、誰もが気軽に参加できるオープンな催しとして企画され、若手のみならず幅広い年齢層から多数の参加がありましたが、今後は、より個別的、実践的なテーマに焦点を絞った少人数のセミナーの開催なども考えられます。西洋中世学会では、来年の正式発足後も、若手研究者の支援を活動の一環とし、積極的に取り組んでいくつもりです。

(文責:三森のぞみ 構成・写真:三森のぞみ、古川誠之)

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