「西洋中世哲学研究において、なぜ写本を読まないといけないのか」
中世哲学・思想系の写本読解
日時:2016年3月26日 午後
会場:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎5階 451教室
この度、西洋中世学会・若手セミナーと山内志朗さんが主催されている「バロック・スコラ哲学研究会」とが共催する形で、岩熊幸男・関沢和泉両氏を講師としてお迎えし、中世盛期(主に十二・十三世紀)の哲学・思想系の手稿を読むための入門的なセミナーを開催することになりましたので、ご案内申し上げます。
岩熊幸男さんは、主に九世紀から十二世紀の論理学に関わる写本を渉猟され、その成果をもとに中世論理学・唯名論史研究の分野において研究を主導する役割を長年にわたり果たされてきました。代表的な論文の一つとして、The Cambridge Companion to Abelard に寄稿されたピエール・アベラールの影響史に関する論考があり、また手稿の校訂の方面では、近年でも Archives d’histoire doctrinale et littéraire du Moyen Âge 等で新しく成果を発表されています。関沢和泉さんは、中世の「リベラル・アーツ」を構成していた「文法学」の歴史的研究がご専門で、中世文法学史の代表的な研究者である Irène Rosier-Catach 氏の下で博士論文を執筆され、その後も「音楽」を含む中世の自由七科の伝統を主に研究されています。
中世哲学・思想史研究では、本来写本を読む作業が研究の基本的要素になりますが、本邦では史料入手が困難などの理由のため、既に公刊されている校訂済みのテクストを分析する慣習が続いてきました。しかし、近年欧米の研究機関・文書館がウェブ上に続々と写本のデータを公表し始めたことで、写本に接すること自体は容易になりつつあります。そのような環境の変化を受け、今回のセミナーでは、講師のお二人に、教科書にも記述があるような写本学一般の知識を説明していただくだけではなく、写本の読解作業を通して哲学・思想を歴史的な文脈から理解する必要性について、具体的な事例をもとに講義を行っていただきます。また、個々の研究者・学生等が研究主題・関心に沿って写本を探し出し、データを入手する実践的な方法や手続きなどに関してもご教示いただく予定です。
また、お二人のセミナーに先立って、「バロック・スコラ哲学研究会」単独開催の研究会では、アダム・タカハシさんによる中世の自然哲学に関する研究発表、また本間裕之さんによるドゥンス・スコトゥスの形而上学に関する発表(特に「個体化の原理」の問題についての研究史の整理)も行われます。
セミナー・研究会についての問い合わせ: vocales.index@gmail.com
※ 件名の欄に「写本セミナー」または「バロック・スコラ哲学研究会」等をご記入ください。
第五回 バロック・スコラ哲学研究会
日時:2016年3月26日 13:00-14:45
会場:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎5階 451教室
- 13:00-13:45 アダム・タカハシ(ラドバウド大学)「中世自然哲学の形成:アヴェロエスの読者としてのアルベルトゥス・マグヌス」
- 14:00-14:45 本間 裕之 (東京大学大学院)「ドゥンス・スコトゥス:個体化の原理をめぐる研究の問題圏」
バロック・スコラ哲学研究会 × 西洋中世学会若手セミナー
同日 15:00-18:00 上記会場にて
講師:岩熊幸男+関沢和泉
- (1)関沢和泉「総論(13世紀の事例を通して)」
- (2)岩熊幸男「写本と 12 世紀論理学研究(普遍論争を中心に)」
- (3)岩熊幸男、関沢和泉他「共同討議:中世思想の現場としての写本」
(その他プラクティカルな解説、会場との質疑応答含む)
※ 適宜休憩を入れながら各セクション45分前後で進行の予定です。
講師紹介:
岩熊幸男:前福井県立大学教授。コペンハーゲン大学博士。広範な写本研究に基づく多くのテクストのトランスクリプション・校訂を通じて、中世論理学史の書き換えを長年にわたり主導してきた。代表的論文として、“Vocales, or Early Nominalists,” Traditio, 47 (1992), 37-111; “Influence,” in J. Brower and K. Guilfoy (eds.), The Cambridge Companion to Abelard (Cambridge, 2004), 305-335; “Pseudo-Rabanus super Porphyrium,” Archives d’histoire doctrinale et littéraire du Moyen Âge, 75 (2008), 43-196.
関沢和泉:東日本国際大学東洋思想研究所特任准教授。パリ第7大学博士。13世紀の言語哲学にかかわる領域を写本に基づいて研究している。2004-2007年、12世紀の巨大な文法(註釈)書である Glosulae の周辺を研究する国際研究プロジェクト Projet Glosulae (CNRS) の技術責任者を務める。代表的論文として、Le naturalisme linguistique de Boèce de Dacie: enjeux et discussions、パリ第7大学博士論文、2010年;「Accessus 系テクストは十三世紀の大学の「三つのポリシー」を伝えているか?」『中世思想研究』、2015年、88-99 頁。